河川の氾濫を抑えるには?川のモデル作りから多様な気づきにつながる理科学習 

流れる水の働き(五年)

 五年生理科の学習で行われる「流れる水の働き」単元では、一般的に、川のモデルを作って浸食・運搬・堆積作用を調べる学習を行う。その際、川がカーブする内側と外側の様子に注目させたり、流量を変化させたりすることで流れる水の働きを捉えていくものである。以前担任した、五年生の子どもたちとも上記のように学習を進めた。

 この時、教師の想定を超え、川幅を変化させた場合、直線とカーブの川の様子を比較した場合、支流が合流する場合などの流れる水の働きを調べるといった独自の活動が見られた。その当時の子どもたちから私が学んだのは、川のモデルを使えば、川の流水作用について多様な追究ができるということである。

 そこで、過去に行った学習での経験をもとに、現在担任している五年生の子どもたちと川のモデル作りを通して見つけた多様な気づき・問いが生きる学習を目指した。


一.単元導入時期
子どもたちには本単元に入る夏休み前から、「五年生の理科の学習では川のモデルを作って流れる水の働きを調べます。」と予告しておいた。土を触って水を流し、川を自由自在に作る活動が子どもの興味を惹きつけたようで、「早く川が作りたいです。」「流れる水の働きの学習はいつなのですか。」と度々たずねられていた。子どもたちが単元の始まりを希望する声が上がり始めた九月、本単元を実施することに決めた。

 かねてより土と水を触って気持ちよく活動できるのは、酷暑の盛りが過ぎた九月〜十月後半だと考えていた。時期が遅くなりすぎると気温が下がり、気温や水温が冷たく感じられるので活動意欲が低下すると考えられる。その点、台風が到来しやすい九月は、河川の情報がメディアで取り上げられることも多く、子どもたちの防災への意識も高まりやすいとも考えた。九月は、単元を行う適当な時期と、子どもたちの思いが高まる時期が丁度重なった。


二.単元導入時のテーマ設定
単元を始めるにあたり、川のモデル作りを行いながら個々の追究が進むためには、具体的に何を追究すればよいのか見いだしやすいテーマが必要だと考えた。漠然と川作りをしているだけでは、子どもが何を調べればよいのか困惑すると考えられるからである。子どもが個々に追究を進められるオープンなテーマでありながら、追究の方向が見いだしやすいクローズさを兼ね備えることを目指した。

 そこで考えたのは、「河川の氾濫を抑えるためにはどうすればよいか〜川のモデルを作って考える〜」というテーマである。二〇一九年十月の台風十九号による大雨で起きた千曲川の氾濫、二〇二〇年七月に線状降水帯の発生により大雨が降ったことで起きた球磨川の氾濫といった、大雨による被害は毎年のように起きている。このような災害を防ぐ取り組みを学ぶために、令和二年度版の教科書(啓林館)では単元後半の資料として川の水による災害を防ぐ取り組みが紹介されている。「河川の氾濫を抑えるためにはどうすればよいか」というテーマから単元を始めれば、子どもが川作りを行いながら、護岸工事の必要性、遊水池の有効性等にも目を向け、川の水による災害を防ぐ取り組みが実感を持って理解できるのではないかと考えた。そして、実験を通して、流水の三つの働きについて学ぶことができると期待した。


三.川のモデル作りを行う上での場の設定
川のモデルを用いた実験で、子どもたちが楽しく活動するためには、十分に水が扱える環境が必要である。そのため、蛇口のそばに置いたトロ船(大きなたらい)に水をためておき、使いたい時に必要な分だけペットボトルで汲めるようにした。
道具の準備を中心になって行うのは理科係である。流水実験の学習が始まる前から、理科係が協力し合って道具の準備をした。係の子どもたちが学級みんなのために働くことで、スムーズに川作りができる。係の子どもたちには、学習を自分たちの力で進める責任感が生まれ、主体的に学習をつくる学級へと育っていくのである。


四.実際の学習
(一)川のモデル作り
実験が始まると、個々に川を作ろうと思っていた子どもたちが、共同作業をした方が、効率的に大きな川を作れると気がつき自然にグループが出来上がっていった。自分たちが掘った溝に水を流し入れると子どもたちは喜んだ。さらに水を流してみると溝から越流が簡単に起きると気がついた。子どもたちは、越流をくい止めるための堤防や、排水するための新たな溝を作っていた。教師は、「堤防が高くなったおかげで決壊をくい止められたね。」「このグループは堤防の強度と高さを上げてスーパー堤防にしているよ。」「支流を作って水の勢いを分けたんだ。」「ダムをつくることで下流に一気に水が流れ込むのを防いでいるんだね。」と、子どもたちが実際の川で用いられる用語を用いて行動・現象を説明できるように促し続けた。

実験の日の子どもの日記を読んでみると、自分たちが活動したことと、教師から聞いた科学的な言葉を上手く結びつけていたことが分かる。例えばAくんは次のように書いていた。 

○Aくんの日記
今日は川を作りました。ひとりひとり役割分担をすることでより大きい川を作ることができると思ったのでそうしました。僕はダムも作っていました。作っていた場所は上流です。上流に作ったわけは上流に水をためておいてから流した方が水の調整ができると思ったからです。上流部分がけっかいしないように工夫したのは堤防を作り、水がうまく流れるよう川のはばを広くしたりしたことです。そのおかげで上流はけっかいしなくなりました。次は、どこがけっかいしやすいのかもっと注目したいです。

(二)川作りについての話し合いから生まれた新たな問い
モデルの川作り後の学習では、それぞれの子どもがどのようなことに気がついていたのか情報交換する相互学習の時間を設けた。子どもたちの対話は次のようになった。

Bさん 水を流し始めた上流部分は、浸食が起きやすかったです。そこでは、水が濁っているのが見えました。
Cくん ぼくはダムを造りました。ダムの中には上流部の砂が流れてきてたまっていると思いました。
Dさん 私は浸食・運搬が確認できたのですが、堆積だけは、はっきりと分かりませんでした。 
Eくん ぼくは下流の最後の所に堆積が起きていたと思います。 
T   どうしたら堆積がはっきりと見えたと思いますか。 
Fさん カラーサンドを使って、水の流れでカラーサンドが運搬された後にたまっていた場所があれば堆積が起きたと言えると思います。 
Gさん 私は、カラーサンドではなくて、チョークを流したらいいと思います。
Hくん ぼくはペットボトルを川の途中に沈めておき、水を流した後で沈めて置いたペットボトルを取り出して、中に土が入っていれば堆積が起きたと証明できると思います。
T   それでは、次の時間は各自が必要な道具を用意して、堆積が確認できるか調べてみましょう。
こうして、もう一度川作りを行い、堆積作用を調べるための計画ができあがった。


(三)堆積作用を中心に調べる川のモデル実験
二度目となる川のモデル実験では、前時の相互学習で提案された、カラーサンド、チョーク、ペットボトルを用いて堆積作用を調べることにした。中には、スパンコールや、落ちている枯れ葉、枯れ枝などを使用している子どもがいるなど、前時の発言以外の工夫も見られた。道具の使用もあって、この日の実験では、目的としていた堆積作用だけでなく、浸食・運搬が前回よりもはっきりと見えたという子どもたちが多くいた。次に紹介するのは二度目の川のモデル実験を行った後の学習記録である。

○Iくん
今日の理科の学習では川のしん食・運ぱん・たい積を見るために川のモデルを作りました。僕は前の学習の時にダムを作っていました。前回ダムの中にたい積作用が見えたと思っていました。しかし、確実ではなかったので今回もダムの中にたい積作用ができるのか調べてみました。今回は、ダムの中に上の部分を切ったペットボトルをしずめておきました。すると僕の考えていた通りダムに沈めたペットボトルの底にどろがたまっていました。土が層になっているのが見えました。大きいつぶから順にしずんでいました。重さが関係していると思います。

○Jくん
今日の理科で僕は滝つぼに石をうめておきました。結果は滝つぼの石の上にたい積が起こり、土によって石が見えませんでした。今回の実験で一番よくわかったのはたい積でした。川の曲がり角の内側には、すごくたい積しているのが見えました。これは水のスピードがゆっくりになっていたので土がたまったのだと思いました。

Iくんの学習の記録からは堆積作用をはっきりと確認した以外にも、堆積した土が層になっており、粒の重さが関係していると考えたことが分かる。Jくんは独自の実験方法を試し、堆積作用を確認したことと、堆積作用が水の流速と関係していたことに気がついたということが読み取れる。二人とも流水作用への学びが深まったといえるだろう。次に紹介するKくんもJくんと同様に流速と流水作用の関係について考えている。

○Kくん
しん食・運ぱん・たい積作用
今日の三・四時間目は理科でした。今回は、しん食・運ぱん・たい積作用について川のモデルを作って調べました。上流と下流部分で特にしん食作用が起こり、運ぱんをしていたのが見えました。中流はあまりしん食が起きていませんでした。今回はカラーサンドを使いました。使うことにより、傾斜によって運ぱんのしやすさがことなるのが、はっきりと確認できました。Iくんが作ったダムは元々すごく浅かったのに、ダムの中に水が流れたい積が起きるとすごく浅くなっていました。
僕は砂場の土と、裏山の土とではしん食作用が変わってくると思います。粒の大きさが違い、サラサラしているという事は流れやすいと考えられるからです。
今日、いろいろと試してみて、実際の川について考えて見ると、もし、台風が来て大雨が降ったら、流れが速くなりしん食作用が変わってくると思いました。次の学習では自然災害についてもっとみんなで考えてみたいです。

Kくんは、川の傾斜によって運搬作用が異なっていると気がついた。また、Iくんが作っていたダム底に堆積する様子も発見した。それだけでなく、四年生の理科「雨水のゆくえ」で調べた土の粒の大きさと水のしみこみ方の違いが、流水作用にも関係があるのではないかと考えることもできている。さらに、実際の自然の川で台風が来たときについても考えを拡げることができた。


終わりに
 モデルの川づくりは子ども一人ひとりが思い思いに好きな川を作り、自分の課題を試すことができるため子どもの活動意欲を喚起した。単元の始めに川作りをして以降「川作りをもう一度やりたい。」という声を何度も聞いた。これは、単元が進んでも変わらず、単元終了まで続いていた。

 全ての子どもの考えを紹介しきれないのが残念だが、今回紹介した四人の学習記録からはモデルの川作りを通して、個々の追究ができていたことが分かる。

 川のモデル作りによる追究を終えた後の子どもたちは、インターネットを用いて、川の災害を防ぐ取り組みを調べた。そこでも自分たちがモデルの川づくりを行った経験が生きていた。例えば、上流からの土砂の流入や、川の決壊を防ぐための堤防の強化などについて理解を深めた。この調べ学習時にも「大雨による被害を学んだので、もう一度川のモデルを作って試したい」という子どもたちの声を聞いた。調べ学習だけになりがちな学習だが、体感を伴った理解が大切だと実感した。以前の子どもたちから学んだ経験が、今の子どもたちに生きた実践となった。

実践の詳細(写真も含む)は「学習研究497号(2021)」奈良女子大学附属小学校学習研究会をご覧ください。