第2回「社会に開かれた教育課程」とは

田村学教授(國學院大學)

あけましておめでとうございます。昨年は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックで大変な一年となりました。新しい年は明るい年になることを強く願いたいと思います。

前回の連載第一回目では、いつも耳にする「教育課程」について確認をしました。この度の教育課程の基準の改訂、つまり学習指導要領の見直しに当たっては、「社会に開かれた教育課程」という言葉が使われています。こんかいは、この「社会に開かれた教育課程」について整理してみましょう。

 

未来社会を担っていくのは,私たちの目の前にいる一人一人の子供です。そうした子供の確かな成長と育成は、学校教育のみで行うものではありません。家庭での教育や広く社会での教育が一体となって行われることで、大きな効果を発揮し、子供たちは未来社会の創り手となっていくのです。

そのためにも、学校教育の中心である教育課程が社会に開かれたものであることが大切です。今回の学習指導要領の改訂は、学校教育と社会が一体となって子供を育てる「社会に開かれた教育課程」の理念を大切にして改訂の検討を進めてきました。

3つのポイント

「社会に開かれた教育課程」の理念としては、次の3つが重要なポイントです。



    1. 社会や世界の状況を幅広く視野に入れ、よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を持ち、教育課程を介してその目標を社会と共有していくこと。

    2. これからの社会を創り出していく子供たちが、社会や世界に向き合い関わり合い、自分の人生を切り拓いていくために求められる資質・能力とは何かを、教育課程において明確化し育んでいくこと。

    3. 教育課程の実施に当たって、地域の人的・物的資源を活用したり、放課後や土曜日等を活用した社会教育との連携を図ったりし、学校教育を学校内に閉じずに、その目指すところを社会と共有・連携しながら実現させること。




上記の3つについて、順番に考えてみましょう。

1.目標を社会と共有すること

今回の学習指導要領の改訂では、これまでの改訂と同じように目の前の子供の実態を踏まえて検討を進めてきました。そこでは、確かに育ってきている日本の子供の力、少し心配な姿などを明らかにして議論を進めてきました。一方、今回の改訂で話題にしてきたことが未来社会の変化です。とりわけ、人工知能が広く社会に普及することで、求められる人材が大きく変化することは、今後の教育を考える際には大きなポイントとなりました。

過去においては、たくさんの知識を暗記し、指示を確実にこなし、同じような行動を間違いなく行える人材が必要な時代がありました。そうした時代には、そうした人材を育成する教育が必要だったのです。これからの時代は、手に入れた知識を活用し、出会ったこともない問題状況を自分達の力で解決したり、様々な考えの人と新しいアイディを生み出したりする人材が必要になってきました。そうした人材こそが、未来の社会を確かに担っていくのでしょう。

そのためにもどのような社会を創造していく必要があるのか。そのためにはどのような教育課程が求められるのかが共有される必要があるのです。

2.資質・能力を明確化すること

描いた社会を創造していく人材には、どのような資質・能力が必要なのかを明らかにすることが欠かせません。今回の改訂では、「何を学ぶか」とする個別の知識はもちろん、「何ができるようになるか」とする実際の社会で活用できる能力の育成を大切にし、それらがより確かに、より適切に、より安定して発揮される態度として形成されることを検討してきました。

そうした検討を進めることで、資質・能力の明確化とともに、資質・能力の育成のためには、実際の社会とのつながりなくしてはできないことも明らかになってきました。

3.社会と共有・連携しながら実現すること

求められる資質・能力の育成に向けて教育課程を編成しても、それを実現することはなかなか容易なことではありません。そのためにも、学校教育はもちろん、社会が一体となって子供の育成に向かっていくことが大切になります。

学校を取り巻く地域社会には、豊かな教育資源があります。それは物だけではなく、多くの人材も教育の貴重な資源です。学校を取り巻く大人達が力を合わせ、知恵を出し合い、子供を真ん中にして教育活動を行うことが大切です。

そうした取組が行われることで、教育課程は確かな教育活動として具現され、一人一人の子供には期待される資質・能力が確かに育成されていくのです。

社会の期待と学校教育と

社会からの学校教育への期待と、学校教育が目指してきたものとを一致させなければならない時代はやってきました。これからの時代を生きていくために必要な力とは何かを学校と社会とが共有し、共に育んでいく絶好のチャンスであると考えることができそうです。これからの教育課程には、社会の変化に目を向け、教育がいつの時代にも変わらずに大切にしてきたものを維持しながら、社会の変化を柔軟に受け止めていく「社会に開かれた教育課程」としての役割が期待されているのです。