第2回「持ち帰りと家庭学習編②:児童生徒側のICT環境をイメージしてみよう」

株式会社エデュテクノロジー 代表取締役
阪上吉宏

第一回は、教員目線での環境整理をしましたが、今回は児童生徒目線で考えていきたいと思います。コロナ禍である令和4年3月現在、タブレット等を家庭に持ち帰る理由や意義は、2年前と比べるとその必要性が明らかであり、緊急事態になった際のことを踏まえると理解度は一定以上あると思われます。以前は、持ち帰りをさせても、児童生徒に何をさせればよいのかが不明瞭で、管理しなければならないことが増えて大変になるなどの考えも多かったのではないでしょうか。
しかしながら、令和4年1月の文部科学省調べを見ても、全国の公立の小中学校等の95.2%が端末の持ち帰りの準備済みと回答*1しているように、着実に持ち帰り自体は計画されています。

とはいえ、持ち帰りができるということと、家庭で学習ができるということはイコールではないと考えておく必要があります。



まずは児童生徒の家庭環境を確認していきましょう。

オンライン授業の実施に影響を与える可能性がある要素として、共働き家庭の増加や保護者のテレワークなどが挙げられます。

2021年現在、共働き世帯はそうでない世帯と比べて2倍以上の1,247万世帯と年々増加しています。*2 地域差はありますが、確実に増えているわけです。

このような状況で学級閉鎖や学年閉鎖などの緊急事態が生じた場合、いざ準備済みとされていたタブレット等はどのような活用がされるのでしょうか。

ちなみに緊急事態だからこそ起こっている事象として、企業のテレワーク推奨があります。
地域や業種による差はありますが、国の推進もあって、テレワークの実施割合は、1回目の緊急事態宣言時には17.6%から56.4%と上昇し、その後低下していますが2回目の緊急事態宣言時には38.4%と再上昇しました。*3
その後、出社を許可する企業が増えていると理解していますが、緊急事態下では、保護者も家庭で仕事をしていて、限られたスペースでそれぞれがオンラインで活動をしているわけですね。

また、国民生活基礎調査からわかるように、2人以上の子供がいる世帯は、1人のみの世帯に比べて1.1倍となっているようです。*4 共働き世帯に加えて、このような家庭では、一斉にオンラインで活動するにあたって、どのような課題が生じるでしょうか。いくつか考えてみたいと思います。

1.音の問題
第一回で触れたようにオンライン授業において、音はとても重要です。タブレット等からの音声(配信されてくる音声)はイヤホンやヘッドホンなどを装着することで抑えることはできますが、発声する音量を抑えることはできません。家庭内でそれぞれの作業スペースが確保できない場合、最悪のケースでは全員がリビングやダイニングで向かい合ってオンラインでの授業や会議に参加している可能性もあるわけです。(もちろん地域によってはサテライトオフィスやカフェを利用することで家庭外に場所をつくる可能性もあります)そのような場合、それぞれが集中して活動をすることができるでしょうか。技術的な問題としてハウリングなども起こりうるのですが、それよりも精神的なストレスが高まることは想像に難くありません。

2.回線速度の問題
学校内でも時に悩みとなるインターネット回線ですが、やはり家庭でも同様に課題となりそうです。
家庭環境は様々ですが、常時ビデオ会議等のアプリケーションを起動させ通信できるネットワークを契約している家庭はどのくらいあるのでしょうか。
家庭内でインターネットに接続している機器は最近ではとても増えていますね。スマホやパソコン、ゲーム機のほかにもテレビをはじめとした家電も利用できるようになってきています。

総務省の情報通信白書によると2006年頃から加速的に家庭用ブロードバンドの契約数は増えています。*5
しかしながら、CATVは根強く、DSLやISDNもまだあるようです。
ところで、一言に光回線を契約しているからと安心して良いのでしょうか。
契約のプランによっては、最大1Gbpsや100Mbpsなどの速度や、定額制か従量制かなどの違いがある可能性があります。
また、契約しているプランに限らず家庭内の設備でも状況は異なりますね。
最近では、アクセスポイントを購入もしくはインターネット会社からレンタルしてWiFiで利用しているケースが多いと思います。

3.保護者の理解と支援
主にオミクロン株による学級閉鎖などがこれほどまでに広がる以前、タブレット等が導入されたばかりの頃は、多くの学校が保護者にどのように持ち帰りのことを説明するか悩まれていたと思います。すでに非常事態を経験している現在では、各家庭のご理解も以前とは異なるとは思われますが、それでも様々な考え方があるでしょう。また、前述のとおり、子どもたちの学習の支援をしたくてもできない事情もあるかもしれません。
日常的に校内でのICT活用が充実しており、ICT リテラシー学習にも力を入れられていたとしても、特に低学年の児童を中心に、完全にひとりでタブレット等を扱った家庭学習やオンライン授業への参加ができる子どもは少ないと考えられます。最低でも家庭のWiFiへの接続などの支援は必要ですね。
すでに実施されている学校も多いですが、保護者と話し合うような課題をはじめとした、実情に即した学習支援を考えていくことが重要です。

このように持ち帰りをしたタブレット等を活用した学習活動を行うには、学校だけではなく家庭でも様々な課題がありそうです。もちろんこれら以外の状況もあるでしょう。
予測のできない時代となりました。多様な選択肢を用意しておく必要がありそうです。
次回は、持ち帰り学習の目的と制約について考えていきたいと思います。

参考文献

※1 臨時休業等の非常時における 端末の持ち帰り学習に関する準備状況調査(文部科学省、令和4年1月)

※2 専業主婦世帯と共働き世帯(独立行政法人労働政策研究・研修機構、令和4年2月)

※3 情報通信白書(総務省、令和3年)

※4 令和3年 国民生活基礎調査(令和元年)の結果からグラフでみる世帯の状況(厚生労働省)

※5 図表0-1-2-1 固定系ブロードバンドサービス等の契約数推移(総務省情報通信白書、令和3年)