第3回「持ち帰りと家庭学習編③:家庭での学習を想像してみよう」

株式会社エデュテクノロジー 代表取締役
阪上吉宏

過去2回では、オンライン授業を実施するときに気をつけるべきICT環境について考えてきました。令和4年3月現在、新型コロナウイルスによる非日常は大きく変わらないものの徐々に感染者数が低下してきました *1 (しかしながら、死亡者数は減少していないことに注意しなければなりません)。過去2年間、様々な行事や学習活動の自粛を経て、社会活動を日常に戻したいという考えが広がる中で、今年度こそは例年通りの学校生活を送りたいという気持ちも高まります。そして、実際に運動会や遠足等の活動は、従来に近い方法で開催され始めています。

そこで今回は原点に戻り、学習端末を持ち帰り、家庭で何をするのか?を考えていきたいと思います。



そもそも、どのような目的で端末を持ち帰り、利用するのでしょうか。あるいはどのような学習活動が可能でしょうか。また、どのようなことを想定してGIGA端末は導入されているでしょうか。

多くの場合、端末の持ち帰りの目的は以下の4つのいずれかに当てはまるのではないでしょうか。

  1. 休校や学級閉鎖などの緊急時に、家庭での学びの保証の手立てとして

  2. 宿題や翌日の持ち物等の学校からの連絡手段として

  3. AIドリル等の活用による基礎学力の定着を目的として

  4. 児童生徒個々に宿題や学習を目的とした自由な利用として(例えば、近々に行う学習発表のプレゼンテーション等の準備や、英語の発音や音楽の評価のための録音や録画など)


コロナ禍における学習活動が、対面での学習の代替手段であり、GIGA端末の活用はあくまで緊急時における利用のみと想定している場合、残念ながら活用シーンはあまりないかもしれません。また、連絡手段を主とした活用としている場合も、学習利用とは言い難いでしょう。そのため、最初の2つについては、今回の議論から除外して考えたいと思います。

さて、児童生徒がそれぞれの家庭でGIGA端末を活用して学習する際に、どのような点に気をつければ効果的に活用してもらうことができるのでしょうか。初めに集中力の持続時間について考えてみましょう。ICT利用時に限らず、児童生徒はどのくらいの間、集中して学習することができるのでしょうか。ひとつの研究結果 *2 から年代別の結果が明らかになっています。

2才: 4分 〜 6分
4才: 8分 〜 12分
6才: 12分 〜 18分
8才: 16分 〜 24分
10才: 20分 〜 30分
12才: 24分 〜 36分
14才: 28分 〜 42分
16才: 32分 〜 48分

もちろん、取り組んでいる課題にどれだけ没頭することができるかなど、様々な要因によりこの時間は変化するとは思いますが、ひとつの目安として、とても貴重なデータです。

しかしながら、その学習課題がどれほど魅力的であっても、家庭には様々なエンターテインメントが存在します。数えるときりがありませんが、漫画・テレビ・ビデオ・ゲーム機・スマホ・音楽プレーヤー・・・その子の興味関心によってその幅はとても広くもなりえるでしょう。また、家庭での時間は児童生徒がリラックスすることができる貴重な時間でもあるわけで、このようなエンターテインメントに没頭してはいけないということもありません。

しかし、緊急事態宣言発令時や休校時ではない現在、地域や学年にもよるものの、児童生徒の放課後の過ごし方は、コロナ禍以前の生活のように、多様で忙しい状態になってきているのではないでしょうか。

少し古いデータですが、2008年に発行された第一生命経済研究所の情報 *3 によると、習い事や部活、友だちと公園等で遊ぶなどが挙げられています。そのような活動の前後で宿題を含めた家庭学習に時間が費やされるわけですが、その時間はどのくらいでしょうか。

ベネッセ教育総合研究所 第2回放課後の生活時間調査報告書(2015)*4 によると、小学校5年生から中学校2年生の家庭学習時間は、1日あたりおおよそ100分前後となっています。

さぁ、ここで考えてみましょう。今日、児童生徒に出している宿題は、果たして何分間かかると想定しているでしょうか。そして、皆様のクラスの児童生徒の興味関心や集中力を加味し、さらに校内のほかの先生が出している課題のボリュームも把握して出されているでしょうか。

そのように考えてみると、ICTだから解決できること、そして持ち帰った学習端末だからこそ、達成できることが明らかになってくるかもしれません。

なぜ学習端末を持ち帰ったのでしょうか。そして、その学習端末を利用すると、どのような価値が生まれるのでしょうか。ICT活用を伴わない宿題や学習、宿題以外の学習に割く時間はどのくらいになるのでしょうか。
それぞれの児童生徒の興味関心を高めるような工夫はされているのでしょうか。

持ち帰りは手段であって、目的ではありません。
学級担任として、教科担任として、学校として、しっかりとしたねらいを持って持ち帰り学習を実施していただきたいと思います。

次回は、公開授業について考えていきたいと思います。

参考資料

*1 国内の発生状況(厚生労働省)
*2 https://blog.lingobus.com/chinese-learning-resources/how-long-can-your-child-stay-focused-and-how-can-you-help/
*3 https://www.dlri.co.jp/pdf/ld/01-14/news0803.pdf
*4 https://berd.benesse.jp/up_images/research/2015_houkago_05.pdf
8 ways distance learning makes it harder to focus (Understood for All Inc)